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福岡高等裁判所 昭和48年(ラ)106号 決定

抗告人

株式会社丸互タクシー

右訴訟代理人

河野浩

相手方

山崎毅

ほか四八名

右訴訟代理人

吉田孝美

岡村正淳

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一抗告の趣旨および理由

本件抗告の趣旨および理由は、別紙記載のとおりである。

二当裁判所の判断

タクシー運転手の作成するいわゆる運転日報とは、道路運送法三〇条の規定に基づく自動車運送事業等運輪規則(昭和三一年八月一日運輸省令第四四号)二二条の二第三項の規定により、一般乗用旅客自動車運送事業者が記録、保存を義務づけられている乗務記録のことをいうのであつて、右規定によれば、右運送事業者は、事業用自動車の運転者が乗務したときは、運転者名、乗務の開始および終了の地点、日時、事故があつたときはその状態およびその原因、走行距離計に表示されている乗務の開始時および終了時における走行距離の積算キロ数などを運転者ごとに記録させ、かつその記録を事業用自動車ごとに整理して一年間保存しなければならないのであつて、陸運局長は、右運送事業者に対し、毎年一回右乗務記録に基づいて、営業ならびに輸送の実績を報告させ、もつて輪送の安全と乗客の利便を図るための資料とするのであるから、運転日報は、本来は、自動車運送事業の適正な運営を確保するため、右運送事業者とその監督官庁である陸運局長との間に作成される文書であつて、右運送事業者とその雇用する運転者との間の法律関係を記載することを目的とした文書ではない。

しかしながら、〈疎明略〉によれば、一般乗用旅客自動車運送事業者である抗告会社においては、運転者に対し、運転日報に、前記規則によつて記録が義務づけられている事項と併せて、乗客の乗車および降車の地点、時刻ならびに所要時間、現収および未収の料金などを記載させ、もつて当該運転者に支給すべき歩合給算定の資料としていることが認められるので、右記載事項の面から考察すれば、抗告会社の運転日報は、抗告会社の運転者である相手方らにおいて、抗告会社から支給される賃金の算定資料にする目的で作成するものであつて、抗告人と相手方らとの間の雇用法律関係に関係のある文書ということができる。陸運局長との間で前記のような文書としての性格を有することは、抗告会社の運転日報が右のような文書としての性格を有することの妨げとはならない。

そうすると、抗告会社の運転日報は、民訴法三一二条三号後段の文書にあたるものというべきである。

よつて、抗告人に対し右運転日報の提出を命じた原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、抗告費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり決定する。

(原田一隆 塩田駿一 松島茂敏)

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